コリンと女性の健康 ― 薬剤師が解説！

薬剤師のとだ先生

「コリン」という栄養素をご存じでしょうか？
ビタミンのようでビタミンではない、体内でわずかに作れるけれど不足しがちなこの成分。
実は女性の健康に深く関わり、脳・肝臓・妊娠期の発達にとって欠かせない栄養素です。
しかし、コリンをきちんと理解して日常的に意識している方はまだ少ないかもしれません。
この記事では、コリンと女性の健康との関係を3つの視点から分かりやすく解説します。

この記事の「結論」！！

コリンは脳の神経伝達（記憶・集中力）、肝臓の脂肪代謝、妊娠期の胎児発達に欠かせない必須栄養素。

女性はエストロゲン低下により体内合成が減少するため、中高年期は特に不足しやすい。

食事やサプリで意識的に摂ることで、女性のライフステージに沿った健康を支えられる。

１．コリンとはそもそも何？

コリンは水溶性のビタミン様物質で、必須栄養素に分類されています。
体内で少量は合成されますが、十分ではないため、食事からの摂取が必要です（※1）。
卵黄や大豆、レバーなどに多く含まれますが、日本人の多くは必要量を下回っていると報告されています（※2）

２．なぜ女性の健康に良いといわれているのか

① 脳と認知機能

コリンは神経伝達物質「アセチルコリン」の原料です。
学習や記憶、集中力に深く関わり、認知機能を維持するために欠かせません（※1,3）。
特に妊娠期や授乳期には、母体から胎児や乳児に優先的に供給されるため、十分な摂取が必要です。

② 肝臓の健康

コリンは脂質の代謝に関与し、肝臓に脂肪がたまるのを防ぎます。
不足すると「非アルコール性脂肪肝（NAFLD）」のリスクが高まることが知られています（※1,4）。
中高年女性では、閉経に伴いエストロゲンが減少し、コリン合成能力も低下するため特に重要です。

③ 妊娠期・胎児発達

コリンは胎児の脳や神経管の形成に必要です。
妊婦のコリン摂取量が不足すると、神経発達や記憶力に影響を与える可能性があると報告されています（※2,5）。
欧米では妊婦のサプリメントにコリンを配合する動きも進んでいます。

３．具体的なエビデンス（研究結果）

脳機能への影響
Zeiselらのレビューでは、コリンは神経伝達と認知機能に不可欠であり、摂取不足が記憶力低下と関連することが示されています（※1）。

女性と遺伝的要因
Ganzらの研究では、若い女性においてもコリン代謝遺伝子の違いによりホモシステイン濃度が変動し、コリン不足が代謝異常につながることが報告されています（※3）。

妊娠期の影響
Derbyshireらの系統的レビューでは、妊娠期のコリン摂取が胎児の神経発達と認知機能にポジティブな影響を与える可能性が整理されています（※5）。

肝臓の健康
コリン欠乏食を与えられた人では脂肪肝が生じることが臨床的に確認されており、脂肪肝予防に不可欠であると結論づけられています（※4）

４．まとめ

コリンは「脳」「肝臓」「妊娠期」に重要な働きをする必須栄養素です。
特に女性はライフステージごとに必要性が高まり、意識的に摂取することが健康維持につながります。
卵や大豆製品などの食品に加え、サプリメントからの補給も有効な選択肢です。

参考論文

※1 Zeisel SH, da Costa KA. Choline: an essential nutrient for public health. Nutr Rev. 2009;67(11):615-623.
※2 Institute of Medicine. Dietary Reference Intakes for Choline. National Academies Press, 1998.
※3 Ganz AB, et al. Genetic variation in choline metabolism is associated with plasma homocysteine in young women. J Nutr. 2016;146(3):525–531.
※4 Fischer LM, et al. Dietary choline requirements of women: effects of estrogen and genetic variation. Am J Clin Nutr. 2010;92(5):1113–1119.
※5 Derbyshire E, Obeid R. Choline, neurological development and brain function: A systematic review. Nutrients. 2020;12(8):2260.